Thank you. Mr
世界で3本の指に入る貧しい国エチオピア。
そこには、食べ物を求めて彷徨うたくさんのストリートチルドレンがいた。ある小雨の降るとても寒い夜、飯とビールをたらふく食べて宿へと帰る途中、擦り切れたTシャツに靴も履いていない1人のストリートチルドレンの子が暗闇から現れた。手足は棒のようにやせ細り、寒さのあまり体は小刻みに震えている。僕を見上げる目はすでに生気を失っていた。それはまるで骨と皮だけの生きた亡霊のようだった。そして雨音に掻き消されるほどの、か細い声で僕にこう言った。
”何か食べ物をくれないか?”
その時僕は偶然ドーナッツを持っていた。その子に、そのドーナッツを分けてあげると、彼は僕に向かって、
” Thank You, Mr. Thank You, Mr ”
そう何度も何度も深々と頭を下げた。そして、その子はその子なりの精一杯の微笑を僕に向かって返してくれた。
ショックだった。
僕は君が何度も頭を下げるほど、立派な人間じゃない!!
ただ日本という何不自由ない豊かな国に生まれたに過ぎない。
君の目にこの世界がどのように映ってるか僕は知りたいと思った。豊かな国に生まれた僕たちが君達の為に出来ることってなんだろう?!その時、僕の心の中で何かが生まれ動き出していくのを感じた。
また別の日の夜、宿に帰ろうと一人通りを歩いていると小さな少年が僕の前に現われ、突然大声で叫んだ。
”give me money! give me money!!
”もし、それが出来ないようなら、俺達はお前を殺して金を奪わなくちゃならない。少しのお金があれば生きていけるのに、誰も俺らに見向きもしない!俺はこの不平等な世に中を怨む。だから、please!!”
興奮しすぎた少年は、雨で濡れる地面に膝をついて、吐いてしまった。
最初は反発的に聞いていた僕も、心の底から必死に叫んでいる彼を見ているうちに心が苦しくなってしまった。周りを見渡すと、彼よりも小さな9人の子供達が、寒さに身を寄せ合って凍りつくように冷たい地面に座っていた。そして、僕を悲しそうな目で見上げていた。
その時、この国の実状や、この国に生きる子供達にとって、世界がどのように映っているか少しだけ分った気がした。子供達の目を見つめ、汚れた手を握り、そして、冷たく凍えた裸足の足を触り、その場から動けなくなってしまった。涙がこみ上げてきて、止まらなかった。
頭が真っ白になりどうしていいかわからなくなってしまった。気がつくとその子をギュッと抱きしめていた。抱きしめた彼の体は冷たく凍え、腕の中でバラバラと壊れてしまいそうなほど弱々しかった。僕はポケットに入っていた100Birr(1300円相当)を彼の手に握らせた。最初、彼はその額の大きさに戸惑っていたが、最後には受け取った。
それまで、パンやアメを渡すことはあっても、お金を渡す事に抵抗があった。しかし、僕がパンを1つしか買えない同じお金で、この子達はパンを3つ買える方法を知っている。そう知った時から、お金を渡す事に抵抗はなくなり、このお金で少しでも子供達が生きていけるならと思った。いつもあげるわけではなく、その都度、正面から向き合って心で判断していこうと思っている。
聞くと彼はまだ10歳、親もいない家もない他の9人の子供達に彼が英語を教えていると言う。僕には1つの疑問があった。
”このお金で君たち9人がいったい何日生きていけるんだ?”そう尋ねると少し考えて、彼はこう答えた。
”3ヶ月”
すごく嬉しかった、しかしそれ以上にショックだった。
その時、頭で理解したのではなく、心で理解した気がした。せめて今夜だけでも、この子達と一緒に外で寝ようかと思った。こんな出来事があっても僕には、宿に帰れば、暖かいふとんが待っている。そして、今日の事もすぐに忘れてしまうんじゃないか、そんな自分が恐かった。しかし、宿の人が心配して僕の帰りを待っているかもしれない。そこで、1つの賭けをした。
宿に帰り、ドアを2回ノックして誰かが出てきたら宿で寝よう。もし誰も出てこなかったら外で子供達と一緒に寝よう!
宿に着き、大きく深呼吸してドアを2回ノックした。すると目の前のドアは開かれた。
自分だけが、暖かいふとんで寝られる事への後ろめたさがある反面、心のどこかで少しホッとしている自分に気づき、悲しくなった。
その日は、夢にまであの少年が出てきて”give me money”と叫んでいた。
今でも、目をつぶると、あの少年が出て来て、俺に”give me money"と言ってくる。
この国では、子供達にたくさんの事を教えてもらった。
All Good Medicine ”素敵な事が起こりますように”

